日高線の存続問題について、次回の臨時町長会議で多数決で決定するという坂下町村会長の発言をうけて、私たちJR日高線を守る会は、2019年10月26日付けで坂下町村会長へ公開質問状を送付しました(様似町役場宛に送付、10月28日着)。回答期日は、11月5日(火)ということでお願いしております。この公開質問状送付について、先ほど記者会見を行いました。公開質問状の内容は、以下の通りです。回答を頂きましたら、また改めて公開したいと思います。
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2019年10月26日
日高町村会会長 坂下 一幸 様
JR日高線を守る会
代表幹事 村井 直美
公 開 質 問 状
2015年1月にJR日高本線が高波被害により運休してから4年9ヶ月が経ち、次回臨時町長会議で日高線の行方が多数決決定されると報道されています。しかし、そもそも日高線を含む今日のJR北海道の維持困難路線の問題は、「地方の問題」ではなく、JR北海道の経営危機の問題であり、32年前の国鉄分割民営化に端を発する国の政策の失敗によるものです。即ち、経営安定基金の運用益で赤字経営を補うという分割民営化時のスキームが破たんし、運用益の不足額が4600億円にものぼり経営を圧迫したことが、今日の問題の本質です。
国の政策の失敗は、国が責任を取るべきであり、こうした歴史的経緯を考えても、地方の路線を廃止して「解決したことにする」べきものではありません。またJR北海道が廃止を提案しようとも、住民や地域はあきらめるわけにはいきません。人口減少や不採算を理由にすれば、広大な北海道で公共インフラは何も維持できないことになり、地方住民の生活は成り立たなくなります。
私たちJR日高線を守る会は、この基本スタンスの下にJR日高線の一日も早い復旧を願い、国と北海道とJR北海道の地域公共交通を守る意志と良識を期待しつつ、自治体の首長のみなさん、地域のみなさんと力を合わせながら、講演会、学習会、懇談会、駅清掃などのあらゆる機会を通して、啓発と運動を進めてきました。
しかし、ここへ来て、日高町村会はバス転換を多数決で決すると言います。住民の生活や地域の未来を左右する重要な問題であるにもかかわらず、これまで会議も一貫して非公開であり、住民に対してバス転換の内容も何ら具体的に明らかにされていない中、私たちJR日高線を守る会は、なぜ今鉄路の復旧を諦めて急ぎバス転換を決定する必要があるのか、という疑問を禁じ得ません。つきましては、以下の通り質問いたしますので、ご回答の程宜しくお願いいたします。
記
一.坂下町村会長は、「1町2億円」の地元負担をすると「町がつぶれる」という趣旨の発言をされて、このことを日高線をあきらめる理由の一つとされていますが、他の維持困難路線の沿線自治体は、日高線のように億単位の地元負担を求められてはいません。にもかかわらず、それら維持困難路線の当面の存続は決定しており、このような多額の負担を求められた日高線だけが差別的取り扱いを受けていると言えます。この差別的取扱いへの抗議も言及もなしに、なぜ坂下町村会長は「1町2億円」を根拠に廃止やむなしとお考えなのでしょうか。なぜ億単位の負担を求められない他路線が存続し、日高線だけが「1町2億円」を理由に鉄路をあきらめなければならないのでしょうか。理由をお聞かせ下さい。
二.坂下町村会長は、「長くなればなるほど、困っている人に誰も手をさしのべず、待っていていいのかと切羽詰まっている状態」と発言されて、このことを理由の一つとして早期にバス転換すべきとされていますが、これは当事者たる「困っている人」に直接お話をお聞きになってのご意見でしょうか。私たち「JR日高線を守る会」は、当事者たる「困っている人」から、「当面は今の代行バスの利便性を高めながら、長期的には日高線を復旧してほしい」「やはり所要時間も短く、車内も広くて揺れも少ない快適な列車が必要。」という声を聞いております。車椅子の方や、リウマチで通院される方、高齢で免許を返納される方々にとって、速達性・快適性にすぐれた鉄道の利便性は、バスで代替することができないものです。地域にも様々な意見があることは承知していますが、鉄道の存続に死活的な利益を有する交通弱者の方々の声を、町村会長として今一度聞いて頂くことはできないでしょうか。
また、上記のご発言は、バス転換すればより便利で快適になるという前提でのお話かと存じますが、上記交通弱者の方々にとって、現行の代行バスより代替バスの方がより便利で快適になるという根拠を、具体的にお聞かせ下さい。
三.10月24日(水)北海道新聞3面掲載記事「旧JR代替バス存続危機 天北宗谷岬線」に報道されたように、鉄路が廃止になりバス転換された地域は、乗客減少や減便、基金や補助金の減少など、どこも同様の問題に喘いでいます。また、ここ日高でも、道南バスのペガサス号が減便になったり、空港行きのバスの経路が変更になって苫小牧への通院が著しく困難になるなど、すでに同様の問題が起きている現実があります。こうした中で、なぜ今、坂下町村会長は多数決をしてまで急ぎ日高線を廃止しバス転換するという困難に自ら突き進もうとしているのでしょうか。理由をお聞かせください。また、バス転換後の各地の疲弊についてもご意見をお聞かせ下さい。
四.前回の臨時町長会議終了後の記者会見にて、坂下町村会長は、多数決に参加しない自治体については「離脱もあり得る」と発言されましたが、「離脱」とは具体的にどのようなことを指しているのでしょうか。また、10月18日の道新日高版記事「浦河町長が退席示唆」にあるように、「次回、浦河町が採決を退席するなら、それ以降の協議から離脱してもらう」との趣旨の発言があったと報道されていますが、これは事実でしょうか。事実とすれば、どのような意図からのご発言でしょうか。
五.上記三と四に述べた事柄(多数決の決定の検討と、「離脱」に関する発言)を確認するために、7月22日と9月24日に行われた臨時町長会議の議事録を開示して下さい。議事録が存在しなければ、会議録や発言録やメモ、録音データなど、各々の発言の主旨が分かるものであれば何でも構いません。可能であれば、上記2日程以外の全ての日高線に関する会議の議事録(なければ発言録や録音データその他何でも)の開示をお願いしたいと思います。
六.日高線の今後に関してこれまで多数回にわたって行われた町村会会議は、今後の住民の生活や地域の未来を左右する重要な議論の場であったため、私たち守る会をはじめ議長会や報道機関などからも公開の要請がなされてきましたが、住民や報道機関による傍聴も取材も許可されず、全て非公開で行われてきました。会議後に短時間のぶら下がり会見は行われましたが、私たちが必要な内容を理解するには不十分なものであり、これをもって行政の説明責任が果たされたとは言えないのではないかと思います。これらの会議は、なぜ一貫して非公開だったのでしょうか。理由をお聞かせ下さい。
七.坂下町村会長は、多数決でバス転換を決定されようとしておりますが、今後以下の問題についてどのように対応するご予定でしょうか。8月27日に私たち守る会が申入れにうかがった際には、(バス転換について)「まだ何も決まっていない」と仰っていましたが、以下の内容は、少なくとも多数決決定がなされる場合にはそれに先立って事前に住民に明らかにされてしかるべきものだと思いますので、それぞれの項目について具体的にお聞かせください。
① 大型バス運転手(大型二種免許保有者)の不足
② 18年後または基金が底をついた後どうするのか
③ 現便数の確保
④ 経路変更される箇所およびその周辺住民の同意
⑤ 運賃、定期代の上昇
⑥ 各町負担の増加
八.大狩部の被災箇所について、JR北海道は護岸責任を放棄し、北海道は「(海岸法施行規則により)鉄道海岸だから護岸ができない。廃線にして公共海岸になれば道が護岸可能」という趣旨の発言をして、事実上日高線の廃止を地元に迫っている状況ですが、なぜ日高町村会はこれに抗議や申し立てをせずに、急ぎ多数決で廃止を決定しようとされているのでしょうか。そもそも海岸法は、国鉄時代の昭和31年に施行された法律であり、国鉄分割民営化までは護岸は国の予算で行われており、「お金がないので直せない」という事態は想定されておりません。即ち、今回のような状況は法の想定外であり、これは法の不備であります。こうした法の不備は、本来であれば政治行政が力を合わせて補うべきものであるところ(※実際、2015年に、道・JR北海道・国の三者間で10億円ずつ負担するという合意がまとまりかけたことがあった)、北海道は当該法(施行規則)を楯にして本来行うべき護岸を行わずに放置することによって、漁業者の被害を長期間継続せしめ、あろうことか結果として地元に廃線を迫ることになっています。このように、機械的・形式的に法を当てはめて本来行うべき護岸を怠り、漁業者の被害を放置し地元に廃線を迫るような振る舞いは、法の悪用というべきものであり、「この法律は、津波、高潮、波浪その他海水又は地盤の変動による被害から海岸を防護することとともに、海岸環境の整備と保全及び公衆の海岸の適正な利用を図り、もって国土の保全に資することを目的とする」という本来の海岸法の趣旨にも悖るものです。国土保全は本来国や道の責任であり、本来道の行うべきは、速やかに護岸を行うことによって、漁業者の不利益を速やかに除去するとともに日高線の復旧に尽力することではないかと考えますが、町村会は道に対してこの事実を指摘し抗議したことはあったのでしょうか。もしなかったのであれば、今後速やかに抗議すべきではないでしょうか。ご意見をお聞かせ下さい。
九.日本を訪れるインバウンドは増加を続け、来年開催予定の東京オリンピックを契機として道内にも多くの外国人観光客が訪れることが予想されます。京都や東京などへのインバウンドの一極集中とその地方分散が課題となる中、地方は人口減少時代の交流人口増加へ向けて、地域の観光力を磨き上げることが求められています。日高には、襟裳岬、アポイ岳ジオパーク、アイヌ文化、二十間道路、牧場風景、美味しい海産物等々、インバウンドを呼び込む魅力あふれるコンテンツがあふれており、千歳空港に近いロケーションを利用してインバウンドを引き込むために、日高線は必要不可欠なピースだと私たちは考えています。鉄道は、特に外国人観光客にとって信頼性の高い公共交通機関であり、路線バスは忌避される傾向にある、とも現役のツアーコンダクターの方にうかがったことがあります。また、日高線の車窓から見えるオーシャンビューや牧場風景は全国屈指の風光明媚さであり、日高線それ自体が観光資源であり地域の宝であると言えます。このような状況で日高線を廃止するとすれば、今後どのように日高の観光振興をはかっていくおつもりでしょうか。具体的にお聞かせ願えれば幸いです。
なお、ご回答はメールまたはFAX、文書で送付くださいますようお願い申し上げます。郵送でご返信頂ける場合は、同封の返信用封筒をご利用のうえ、11月5日(火)までに着くようにご投函をお願いいたします。
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公開質問状の内容は、上記の通りです。
今日の記者会見には、地元を中心に20名ほどの参加をいただき、札幌からも「北の鉄路存続を求める会」の小室さん、苫小牧からは「JR問題を考える苫小牧の会」の伊藤さんから日高線存続への激励メッセージをいただきました。その他、会場からも様々な声をいただきました。本日お忙しい中ご参加いただきました皆さまには、心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。